住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用するための条件

juutakusikin-tokubetsujoukou

「借金を減らしたいけれど、家は手放したくない。」
「債務整理をしたいけれど、住宅ローンはこれまでどおり払い続けたい。」
 持ち家がある方の多くはこのような希望を持っていると思います。自己破産の場合は、基本的に持ち家を処分しなければなりません。一方で、個人再生では、「住宅ローン特則」というものを利用すれば、住宅ローンの支払いを続けて自宅を維持することができます。
 本記事では、「住宅ローン特則」とはどういう制度なのか、「住宅ローン特則」を利用できるのはどういったケースなのか、解説いたします。

「借金を減らしたいけれど、家は手放したくない。」
「債務整理をしたいけれど、住宅ローンはこれまでどおり払い続けたい。」
 持ち家がある方の多くはこのような希望を持っていると思います。自己破産の場合は、基本的に持ち家を処分しなければなりません。一方で、個人再生では、「住宅ローン特則」というものを利用すれば、住宅ローン支払いを続けて自宅を維持することができます。
 本記事では、「住宅ローン特則」とはどういう制度なのか、「住宅ローン特則」を利用するための条件は何かについて解説いたします。

目次

住宅資金貸付債権に関する特則(住宅ローン特則)とは

 「住宅資金貸付債権に関する特則」(住宅ローン特則)とは、個人再生の手続きにおいて一定の要件を満たす場合、住宅ローン以外の債務を整理しつつ、住宅ローンの返済を続けることで、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することを可能とする制度です

 通常、住宅ローンを組んで住宅を購入した場合、住宅ローン債権の担保として、その住宅に抵当権が設定されます。そして、債務者は住宅ローンの返済を続けていくことになりますが、もし住宅ローンの返済が滞ってしまうと、「期限の利益」を失い、その後、抵当権が実行されることが想定されます。「期限の利益」とは、定められたとおりに分割して支払っていくことができる権利のことです。

 住宅ローンの滞納がなくても、個人再生を利用する場合、再生手続開始後、再生計画によらない弁済が禁止されることから(民事再生法85条1項)、やがて「期限の利益」を失い、抵当権が実行されることが想定されます。

 抵当権が実行されると、債務者は自宅を失ってしまいますが、そうなると債務者の再生、生活の立て直しを図るという観点からは望ましくないため、住宅の確保のために設けられたのが「住宅資金貸付債権に関する特則」(住宅ローン特則)(民事再生法196条~206条)です。

住宅資金特別条項とは

 「住宅資金貸付債権に関する特則」(住宅ローン特則)では、住宅ローン債権のうち、一定の要件を満たすものを「住宅資金貸付債権」として規定しています。この「住宅資金貸付債権」について「住宅資金特別条項」を定めることで、住宅ローン以外の債務を整理しつつ、住宅ローンの返済を続けることで、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することが可能となります

<民事再生法 第196条>

1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。

2号 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。

3号 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。

住宅資金特別条項を定めるための要件

 住宅資金特別条項を定めるためには、以下の要件を満たしていることが必要です。

1.住宅資金特別条項の対象となる「住宅」であること

 住宅資金特別条項の適用対象となる「住宅」とは、以下の各要件を満たす建物をいいます(民事再生法196条1号)。

①再生債務者が所有する建物であること

 まず、再生債務者が所有している建物であることが必要です。「所有」は単独所有だけではなく、共有も含まれます。また、建物は一戸建てに限られず、マンションなどの集合住宅の一室も「住宅」にあたります。

②自己の居住の用に供する建物であること

 住宅ローン特則は、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することを可能とするための制度です。したがって、再生債務者自身が居住していない場合には、原則として対象になりません。例えば、専ら店舗や事務所として利用している場合や、専ら投資用として利用している場合は、対象となりません。

転勤などのために一時的に居住していない場合

 転勤などのために、単身赴任をしていたり、一時的に他人に賃貸したりしていて、再生債務者自身が一時的に居住していない場合であっても、転勤終了後に戻る予定があるなど、客観的にみて、生活の本拠として「居住の用に供する」ものであると評価できる場合には「住宅」に該当します
 転勤などのために一時的に居住していない場合でも、生活の本拠である住居として使用する目的がある場合には、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することを可能にするという住宅ローン特則の趣旨が合致するからです。
 転勤のために一時的に他人に賃貸する場合、典型的な契約形態としては「一時使用目的の建物の賃貸借」(借地借家法40条)が挙げられますが、契約形態に関わらず、その賃貸借が転勤に伴う一時的なものと実質的に判断することができれば、「住宅」に該当するといえます。

③床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されていること

 住宅ローン特則は、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することを可能にするための制度です。そういった制度を適用するのが相応しいかどうかを判断する基準として、建物全体の床面積のうち再生債務者の居住部分が2分の1以上、という要件が設けられています。

店舗や事務所が居宅を兼ねている場合

 店舗や事務所が居宅を兼ねている場合であっても、専ら居住の用に供する部分の床面積が全体の2分の1以上であれば「住宅」に該当します。

建物の一部を他人に賃貸している場合や二世帯住宅の場合

 建物の一部を他人に賃貸している場合(間貸ししている場合)や二世帯住宅の場合、それぞれの世帯の居住部分が物理的に独立していて、かつ生活実態を見ても別々に暮らしているといえる場合には、再生債務者の居住部分の床面積が全体の2分の1以上であることが必要となります。

④建物が複数ある場合には、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物であること

 住宅ローン特則は、再生債務者が住宅を確保して生活の基盤を維持することを可能にするための制度であるため、上記①~③の要件を満たす建物が2つ以上ある場合には、この特則が適用されるのは、生活の本拠としている1つの建物に限られます。例えば、自宅の他に別荘を所有している場合には、主に住居として使用している自宅のみが対象となります。

2.「住宅資金貸付債権」であること

 住宅資金特別条項を定めることができるのは、「住宅資金貸付債権」に限られます。「住宅資金特別債権」とは、以下の各要件を満たす債権のことをいいます(民事再生法196条3号)。

①住宅の建設もしくは購入に必要な資金、または住宅の改良に必要な資金の貸付にかかる債権であること

 「住宅の建設もしくは購入に必要な資金」とは、住宅自体の取得に必要な資金だけではなく、住宅の敷地である土地の取得や借地権の取得に必要な資金も含まれます。「住宅の改良に必要な資金」とは、例えば、住宅の増改築やリフォームなどのための資金のことです。

 また、住宅ローンの借り換えがなされた場合には、借り換え後の住宅ローンがこの債権に含まれることになります。

②分割払いの定めがあること

 住宅ローン特則には、住宅ローンについて「期限の利益」を失い、抵当権が実行されることを回避するという意味があるため、一括返済の場合には、住宅ローン特則の適用はありません。

③住宅に抵当権が設定されていること

 住宅ローン特則は、住宅ローンについて「期限の利益」を失い、抵当権が実行されることを回避するための制度です。したがって、住宅に抵当権が設定されていない場合には、この特則の適用はありません。

 銀行などの金融機関からの住宅資金の借入れで、その貸付債権の担保のために住宅に抵当権が設定されている場合は、当然、対象となります。また、銀行などが住宅資金を貸し付ける際に保証会社が保証人となり、その求償権について住宅に抵当権が設定されている場合がありますが、その場合も対象となります

3.住宅資金貸付債権を担保する抵当権以外に担保権が設定されていないこと

 住宅資金貸付債権以外にも債権があって、その担保のために住宅等に後順位担保権(抵当権など)が設定されている場合には、原則として住宅ローン特則を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書)。

 住宅資金貸付債権を担保するための抵当権以外の担保権については、住宅資金特別条項の効力が及ばないため、後順位担保権が実行され、結局、住宅を確保できないことが想定されるためです。

 ただし、再生計画案の提出までの間に他の担保権を抹消できる見込みがある場合には、裁判所の判断で再生手続開始が認められるケースもあります。

4.保証会社が住宅資金貸付債権にかかる保証債務を履行した場合には、その履行日から6ヶ月以内に再生手続開始の申立てがなされること

 住宅ローンを組む場合、通常、保証会社が住宅ローン債権の保証をすることになります。そして、住宅ローンの支払いが一定期間遅れると、保証会社が銀行等の債権者に対して代位弁済を行います(保証債務の履行)。そして、保証会社の保証債務の履行日から6ヶ月を経過した後に再生手続開始の申立てがなされた場合には、住宅資金特別条項を定めることができません(民事再生法198条2項)。

 保証会社による代位弁済が行われた後に、住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されて確定すると、代位弁済はなかったものとみなされ、保証会社は銀行等の債権者から支払った金額の返還を受けます。このように保証会社による保証債務の履行がなされる前の状態に戻ることを「巻戻し」といいます。6ヶ月以内という制限があるのは、保証債務の履行がなされてから長期間が経過した後に「巻戻し」なされると、法律関係の安定が著しく阻害されるためであると考えられます。

 以上、「住宅ローン特則」を利用するための条件などについてまとめてみましたが、実際の事案において「住宅ローン特則」を利用することができるかどうかについては慎重な判断を要しますので、一度弁護士にご相談いただいくことをお勧めいたします。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次