非免責債権

Receipts Tax Office Bank Notes  - Panals / Pixabay

 「基本的に借金の返済を免除してもらえる」というのが自己破産を利用する上で最も重要な効果といえます。しかし、その効果が及ばない債権もあります。例えば、税金や社会保険料、犯罪行為によって生じた損害賠償請求権、既に発生している養育費などです。
 本記事では、返済の免除の効果が及ばない債権について、法律で定められている類型ごとに解説いたします。

 「基本的に借金の返済を免除してもらえる」というのが自己破産を利用する上で最も重要な効果といえます。しかし、その効果が及ばない債権もあります。例えば、税金や社会保険料、犯罪行為によって生じた損害賠償請求権、既に発生している養育費などです。
 本記事では、返済の免除の効果が及ばない債権について、法律で定められている類型ごとに解説いたします。

目次

破産法で規定されている非免責債権

 免責が認められると、借金の返済義務を免れることができますが、一部の債権については、免責の効力が及びません。

 例えば、税金については、自己破産をしても支払義務が消滅しないため、税金の滞納がある場合には、関係機関と協議の上、分割で支払いを続けるなどの対応が必要となります。

 免責の効力が及ばない「非免責債権」は以下のとおりです。

1.租税等の請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

1号 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)

 租税等の請求権は、国庫等の収入の確保を図るという趣旨で、非免責債権とされています。

 租税等の請求権とは、「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」(破産法97条4号)のことをいいます。

 公的機関が有する債権であっても、上水道料金など、「徴収することのできる」根拠となる法律の規定がないものは、非免責債権に含まれず、免責の対象となります。一方で、下水道料金は、「徴収することのできる」根拠となる法律の規定があるため、非免責債権となり、免責の対象となりません。

 他に、「徴収することのできる」根拠となる法律の規定がある税金(所得税、住民税、固定資産税、自動車税など)や国民健康保険料、国民年金保険料などが非免責債権となります

 税金などの滞納がある場合には、国や地方公共団体は、訴訟の提起をすることなく差押えをすることができます。したがって、税金などの滞納がある場合には、自己破産の手続き中であるといった事情を役所などの関係機関に説明し、関係機関と協議の上、分割で支払いを続けるなどの対応が必要となります。

2.破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

2号 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

 犯罪行為によって生じた損害賠償請求権などがこれにあたります。これらの債権が非免責債権とされている趣旨は、加害者に対する制裁や被害者の救済という観点から免責の対象とすることが好ましくないという点にあります。

 「悪意」とは、単なる故意があるだけでなく、故意を超えた積極的な害意がある場合をいうものと解されています(東京地裁平成28年3月11日判決)。

 例えば、不貞の慰謝料請求権も、不法行為に基づく損害賠償請求権にあたりますが、賠償すべき相手方(例えば、夫が不貞をした場合、その妻)に対する積極的な害意がある場合には、「悪意」があるとして非免責債権に含まれることになります。しかしながら、そのような積極的な害意が認められるケースは少ないと考えられるため、不貞の慰謝料請求権については、多くの場合、非免責債権にあたらないといえます。

3.破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

3号 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)

 上記2号と同じく、加害者に対する制裁や被害者の救済という観点に加えて、人の生命・身体に対する法による保護という観点から非免責債権とされたものです。

 例えば、故意に暴力を振るって相手をケガさせた場合や、飲酒運転や危険運転致死傷罪が成立するような悪質な運転によって人にケガを負わせた場合などがこれにあたります。過失によって交通事故を起こした場合でも、「重大な過失」とは認められない場合には、非免責債権にあたりません

4.親族関係にかかる請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

4号 次に掲げる義務に係る請求権

イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務

ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務

ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務

ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

  • イ.夫婦間の協力及び扶助の義務に基づく請求権
  • ロ.婚姻から生ずる費用の分担の義務に基づく請求権
  • ハ.子の監護に関する義務に基づく請求権
  • ニ.親族間の扶養の義務に基づく請求権
  • ホ.上記の義務に類する義務であって、契約に基づく請求権

 これらの請求権が非免責債権とされている趣旨は、人の生存に関わる重要なものであり、保護する必要性が高い点にあります。

 具体的には、夫婦間での生活費の支払い、別居中の婚姻費用、子どもがいる場合の養育費などがこの請求権に含まれます

 破産手続開始前の時点で、協議や調停、審判等が成立していて継続的な支払い義務付けられていて、かつ、破産手続開始前の時点で支払いが滞っている(養育費等の)請求権が対象となります。

5.雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

5号 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

 勤労者を保護すべきという社会政策的理由で非免責債権とされているものです。

 例えば、個人事業主が破産する場合、従業員への未払い給与や積立金の預り金などは非免責債権となり、支払い義務を免れないことになります。

6.破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

6号 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)

 破産者が、特定の者が債権者であることを知りながら、故意または過失によってその者を債権者一覧表に記載しなかった場合、その債権者の債権が非免責債権となります

 特定の債権者が債権者一覧表に記載されてない場合、その債権者は破産手続に参加する機会を失い、不利益を受ける可能性があります。そういった事態を防ぐために、債権者を保護するために規定されたものです。一方で、破産手続について把握していて、破産手続に参加する機会が失われていない債権者は、特に保護する必要はありません。そのため、破産手続開始の決定があったことを知っていた債権者については、債権者一覧表に記載されていない場合でも、その債権者の債権は非免責債権となりません

 なお、特定の債権者を(単なる過失ではなく)意図的に債権者一覧表に記載しない場合には、6号の非免責債権に該当する他、さらに免責不許可事由(虚偽の債権者名簿提出行為)にも該当する可能性があります。その場合には、特定の債権が非免責債権となって免責が認められないだけではなく、全体として免責が認められなくなってしまう可能性があります。

7.罰金等の請求権

<破産法 第253条1項>

 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

7号 罰金等の請求権

 罰金等の請求権については、本人に対する制裁としての意味があるため、政策的理由から非免責債権とされています。

 刑事事件の罰金、追徴金(犯罪によって得た利益を金銭で没収する場合)、刑事訴訟費用(刑事事件の判決で訴訟費用(国選弁護人の報酬など)の負担を求められた場合)、交通違反の反則金などがこれにあたります。

 以上、免責の効力が及ばない債権について解説いたしました。実際の事案において、特定の債権につき免責の効力が及ぶかどうかについては慎重な判断を要する場合がありますので、弁護士にご確認いただくことをお勧めいたします。

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