自己破産における職業・資格の制限

Security Secure Locked Technology  - JanBaby / Pixabay

 自己破産では、一定の職業・資格の制限があります。例えば、警備員の場合、自己破産をすると一定期間、当然に警備員の仕事をすることができなくなります。また、生命保険募集人(保険外交員)の場合、一定期間、新たな登録ができなくなる他、登録の取消しについて規定されています。
 本記事では、自己破産において制限があるのはどのような職業・資格か、また、どのような制限があるのか、制限がいつまで続くのかについて解説いたします。

 自己破産では、一定の職業・資格の制限があります。例えば、警備員の場合、自己破産をすると一定期間、当然に警備員の仕事をすることができなくなります。また、生命保険募集人(保険外交員)の場合、一定期間、新たな登録ができなくなる他、登録の取消しについて規定されています。
 本記事では、自己破産において制限があるのはどのような職業・資格か、また、どのような制限があるのか、制限がいつまで続くのかについて解説いたします。

目次

自己破産によって勤務先を解雇されるか


 自己破産をした場合でも、法令によって職業・資格の制限が定められている場合を除いて、基本的に仕事に影響はありません。

 仮に勤務先に自己破産の事実が知られたとしても、そのことを理由として会社が従業員を解雇することはできません。労働基準法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しているところ、自己破産をしたことのみを理由とする解雇は、「客観的に合理的な理由」を欠く場合にあたり、そのような解雇は無効といえます。

 また、自己破産をしたことは官報に掲載されるとはいえ、官報を定期的に確認している企業はごく一部に限られると考えられますので、そもそも勤務先に自己破産の事実が知られる可能性は高くないといえます。なお、会社からの借入れがある場合には、その会社が債権者となりますので、裁判所からも会社に対して通知がなされ、会社に自己破産の事実が知られることになります。

自己破産において制限を受ける職業・資格 

 一方で、以下のとおり、法令によって職業・資格の制限が定められている場合には、自己破産によって一定の期間、その職業に就けなくなったり、資格を失ったりするという大きな不利益を受けますので、自己破産を検討する場合には注意が必要です

公法上の制限

1.士業

  • 弁護士、弁理士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、通関士など

<弁護士法 第7条>(弁護士の欠格事由)

 次に掲げる者は、第4条、第5条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない
4号 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

 例えば、弁護士の場合、破産手続開始決定を受けることにより、登録することができなくなります。また、既に登録している場合には、当然に資格を失います。ただし、破産手続きが終了した後、復権すれば、再び登録することができるようになります。

 このように、士業では一般的に、破産手続きによって当然に資格を失うことになります。

 一方で、同じように資格が必要な職業でも、医師、歯科医師、看護師、助産師、薬剤師、介護福祉士などは制限を受けません。

2.一部の公務員

  • 公証人、都道府県公安委員会、公正取引委員会、教育委員会等の委員など

<地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第4条>(任命)
3項 次の各号のいずれかに該当する者は、教育長又は委員となることができない。
 1号 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

 一般の公務員については自己破産において職業・資格の制限を受けません。

 もっとも、上記の教育委員会の委員のような一部のケースでは、破産手続開始決定により職務を継続することができなくなります。

3.団体の役員

  • 商工会議所、信用金庫、日本銀行、その他金融商品取引業などの役員など

 これらの役員などは、破産手続開始決定により職務を継続することができなくなります。

4.金融関連業

  • 生命保険募集人、貸金業者、質屋・古物商など

<保険業法>
第279条 (登録の拒否)
1項 内閣総理大臣は、登録申請者が次の各号のいずれかに該当するとき・・・は、その登録を拒否しなければならない。
 1号 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者・・・
第307条 (登録の取消し等)
1項 内閣総理大臣は、特定保険募集人・・・が次の各号のいずれかに該当するときは、・・・登録を取り消し、又は6月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる
 1号 特定保険募集人が第279条第1項第1号・・・のいずれかに該当することとなったとき。

 例えば、生命保険募集人(保険外交員)の場合、破産手続開始決定を受けてから復権を得るまでの間、新たに登録することはできません。一方で、既に登録を受けている場合には、破産開始手続決定を受けても、当然に登録が取り消しとなるわけではありません。「登録を取り消し、又は6月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。」と規定されており。士業などで当然に資格を失う場合とは異なり、必ず取消しとなるのではなく、取消しなどの処分を受けることもある、という任意的な規定となっています。

5.その他

  • 警備員、警備業者、旅行業務取扱管理者、証券会社外務員、宅地建物取引業者、探偵業、建設業、風俗業、廃棄物処理業など

<警備業法>
第3条 (警備業の要件)
 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。
 1号 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
第14条 (警備員の制限)
1項 18歳未満の者又は第3条第1号から第7号までのいずれかに該当する者は、警備員となってはならない
2項 警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。

 例えば、警備員の場合、上記のとおり「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は「警備員となってはならない」と規定されており、破産手続開始によって、当然に警備員の仕事をすることができなくなります。もっとも、自己破産の手続きを始めたことに伴い、一旦、警備会社を退職したとしても、その後復権することによって、再び就職して警備員の仕事をすることは可能です。

<旅行業法>
第6条 (登録の拒否)
1項6号 ・・・又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
第11条の2 (旅行業務取扱管理者の選任)
1項 旅行業者・・・は、営業所ごとに、一人以上の第6項の規定に適合する旅行業務取扱管理者を選任して、・・・事務を行わせなければならない
6項 旅行業務取扱管理者は、第6条第1項第1号から第6号までのいずれにも該当しない者で、次に掲げるものでなければならない。

 また、旅行業者は営業所ごとに一人以上の旅行業務取扱管理者を選任して事務を行わせなければならないと規定されているところ、旅行業務取扱管理者は、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当しない者でなければならないとされています。したがって、営業所における旅行業務取扱管理者として勤務している人が自己破産をする場合には、自己破産の手続き中、担当業務を変更してもらうなどして、違法に業務を取り扱うことにならないように対処することが必要です。

私法上の制限

  • 後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助、補助監督人、遺言執行者など

<民法第847条>(後見人の欠格事由)
 次に掲げる者は、後見人となることができない。
 3号 破産者

 例えば、民法では、後見人の欠格事由として「破産者」が規定されています。後見人とは、認知症や精神障害などによって判断能力が衰えてしまった人に代わって契約を締結したり、財産の管理をしたりする人のことです。

 このように私人間の法律関係においても、自己破産をした場合には一定の資格制限があります。

<取締役>

 会社の取締役は、自己破産による資格の制限を受けませんが、民法第653条2号に「委任は、次に掲げる事由によって終了する。・・・委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。」との規定があり、破産手続開始決定により委任契約は終了となり、取締役の地位を失うことになります。そして、旧商法には、免責が確定しない間は、取締役になることができないという規定がありましたが、現在はこの規定が撤廃されているため、一度退任した後、すぐに株主総会決議により再任されることも可能です。

職業・資格の制限を受ける期間

 自己破産をした場合、法律上「破産者」として扱われ、一定の制限を受けますが、「破産者」が本来の立場に戻り、制限が解除されることを「復権」といいます。

 自己破産によって職業・資格の制限を受けたとしても、いつまでも制限が続くわけではなく、「復権」によって制限が解除されます多くのケースでは、免責許可決定が確定することによって「復権」となります

 自己破産の申立てから、免責許可決定が出るまで期間は、(同時廃止の場合)通常、4~5ヶ月程度で、その後、免責許可決定が確定するまでの期間は1ヶ月程度です。したがって、自己破産の申立てから「復権」までの期間は、(同時廃止の場合)通常、5~6ヶ月程度となります。

 なお、免責が認められない場合には、破産開始決定後、破産法上の犯罪で有罪の確定判決を受けることなく10年を経過した場合などに「復権」となります。

 自己破産を検討されている場合、ご自身の仕事が自己破産の手続きによって影響を受けるかどうかについては、弁護士に確認していただくことをお勧めいたします。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次