自己破産における財産の処分

自己破産における財産の処分

 自己破産では、基本的に返済の免除という効果を受けられるメリットがある一方で、基本的に保有する財産を手放さなければいけないというデメリットがあります。もっとも、自己破産をしたからといって、無一文になることを強いられるわけではなく、一定の範囲の財産については残すことができます。
 本記事では、自己破産を利用したときに、どの範囲で財産を残すことができるか、自己破産における財産の処分の基準について解説いたします。

 自己破産では、基本的に返済の免除という効果を受けられるメリットがある一方で、基本的に保有する財産を手放さなければいけないというデメリットがあります。もっとも、自己破産をしたからといって、無一文になることを強いられるわけではなく、一定の範囲の財産については残すことができます。
 本記事では、自己破産を利用したときに、どの範囲で財産を残すことができるか、自己破産における財産の処分の基準について解説いたします。

 自己破産の手続きでは、破産管財人が破産者の財産を売却して金銭に換価し、その金銭を債権者に公平に分配して、清算を行います(管財事件の場合)。

 破産者が破産手続開始時に有する一切の財産は、原則として「破産財団」を構成し、換価の対象となります。

 「破産財団」とは、破産者の財産で、破産手続きにおいて破産管財人に管理、処分する権限が専属するものをいいます(破産法2条14項)。すなわち、「破産財団」とは、破産手続きにおいて債権者への配当にあてられるべき破産者の総財産のことです

 一方で、一定の範囲の財産については、処分・換価を要しないものとされています。破産財団に属さず、破産者が自由に管理、処分できる財産を「自由財産」といいます。まず、法律上当然に「自由財産」となる本来的自由財産というものが規定されています。さらに、事情に応じて「自由財産」の範囲を拡張し、破産者が手元に残せる財産の範囲を広げる自由財産拡張という仕組みがあります。

目次

本来的自由財産

 破産者が破産手続開始時に有する一切の財産は、原則として「破産財団」を構成し、換価の対象となります。もっとも、全て換価の対象とされてしまうと、破産者が生活を維持することができないため、例外的に、法律上当然に破産財団に属さない財産が規定されています(破産法34条3項)。これを本来的自由財産といい、破産管財人の管理、処分権限が及びません

 本来的自由財産には、以下のものがあります。

99万円以下の現金

 以下のとおり、破産法34条3項1号、民事執行法131条3号、民事執行法施行令1条の規定によって、99万円以下の現金が破産財団に属しないものとされています。これは、標準的世帯の必要生活費33万円(以前は21万円)の3ヶ月分に相当するものです。したがって、99万円以下の現金については、破産手続きにおいても手元に残せることになります

<破産法第34条>(破産財団の範囲)

3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。

 1号 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭

<民事執行法第131条>(差押禁止動産)

 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。

 3号 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

<民事執行法施行令第1条>

 民事執行法(以下「法」という。)第131条第3号・・・の政令で定める額は、66万円とする

差押禁止動産

 差し押さえることができない財産は、破産財団に属しないとされていて(破産法34条3項)、破産管財人による換価、処分がなされません。

 差押禁止動産は、以下のとおり規定されています。(「動産」とは、不動産以外の有体物をいいます(民法86条2項、85条))。

 例えば、生活に欠くことができない衣類、寝具、家具、台所用具(1号)や1カ月の生活に必要な食料及び燃料(2号)がこれにあたります。また、「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」(3号)とは、66万円以下の金銭をいいます。(この規定にかかわらず、上記のとおり99万円以下の現金は本来的自由財産であり、破産財団に属しません。)

 なお、条文にある「債務者等」とは、「債務者及びその者と生計を一にする同居の親族」のことをいいます(民事執行法97条1項)。

<民事執行法第131条>(差押禁止動産)

 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。

1号 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具

2号 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料

3号 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

4号 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物

5号 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物

6号 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)

7号 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの

8号 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物

9号 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類

10号 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

11号 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

12号 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの

13号 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物

14号 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

差押禁止債権

 給料などのうち一定の範囲については、差押えが禁止されており、このような差押禁止債権は、破産財団に属しないとされていて、破産管財人による換価、処分がなされません。

 給料の他、退職手当、生命保険会社等に対する私的年金、養育費などがこれに含まれます。

 給料の場合、手取り金額が44万円を越える場合には、33万円が差押禁止債権となり、残りは管財人による処分の対象となります。例えば、給料の手取り金額が20万円の場合は、15万円が差押禁止債権となり、残り5万円は管財人による処分の対象となります。

 もっとも、破産開始決定前に既に受け取っている給料は、現金や預貯金として扱われるため、ここでいう「債権」に含まれません。また、破産開始決定後に発生する給料は、新得財産となるため、そもそも管財人による処分の対象となりません。したがって、管財人による処分の対象となるのは、破産開始決定前にまだ受領していない給料に限られることになります。

<民事執行法第152条>(差押禁止債権)

1項 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。

 1号 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権

 2号 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

2項 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。

3項 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。

特別法上の差押禁止債権

 生活保護受給権や各種年金受給権、小規模企業共済の共済金受給権などがこれにあたります。もっとも、生活保護費や年金などが開始決定までに預金口座に入金された場合には、単なる預金債権となり、差押禁止財産となりません。この場合は、自由財産拡張が認められるかどうかが問題となります。

性質上の差押禁止財産

 慰謝料請求権など一身専属性を有する権利がこれにあたります。もっとも、当事者間で示談が成立するなど、具体的な金額が確定することによって一身専属性を失い、差押えが可能となり、破産財団に属することになります。

自由財産拡張

 本来的自由財産を破産者の手元に残すだけでは、破産者が経済的な再生を図るのに不十分なケースもあります。そのため、個別事情によっては、本来的自由財産の範囲を超えて、破産者の手元に財産を残すことを裁判所が認めることがありますこれを自由財産拡張といいます。どのような場合に自由財産の拡張を認めるか、その運用は裁判所によって異なります。

定型的に拡張が認められる財産

 東京地裁では、以下のような基準があり、これに当てはまる場合には、自由財産拡張の申立てをすることなく、自由財産として扱われます。ただし、下記の基準をオーバーする場合や下記の項目以外の財産であっても、裁判所が管財人の意見を聴いて相当と認めるときは、換価を要しないものとされる場合があります。

残高が20万円以下の預貯金

 保有している全口座の残高の合計額が20万円以下である必要があります。全口座の残高の合計額が20万円を越える場合は、全ての預貯金について換価を要することになります。

解約返戻金の見込み額が20万円以下の生命保険

 基準では「生命保険」となっていますが、医療保険、学資保険、個人年金などもこれにあてはまります。 

 契約している全ての保険の解約返戻金の見込み額の合計額が20万円以下である必要があります。全ての保険の解約返戻金の見込み額の合計額が20万円を越える場合は、全ての保険について換価を要することになります。

 ただし、保険の解約返戻金の見込み額の合計額が20万円を越える場合であっても、解約返戻金相当額を破産財団に組み入れることで、換価を要しないとの取り扱いがなされることもあります。

 また、破産者が契約者貸付を受けている場合には、解約返戻金額から貸付額を控除した額を基に判断することになります。

処分見込価額が20万円以下の自動車

 通常、査定書などを裁判所に提出して、処分見込額を明らかにしますが、減価償却期間(普通自動車は6年、軽自動車は4年)を経過している場合には、無価値と扱われ、査定が不要とされることもあります。

居住用家屋の敷金債権

 20万円を越えるものであっても換価を要しないとされています。

電話加入権

 現在ではほとんど価値がないと思われますが、基準に挙げられています。複数本あっても換価を要しないとされています。

支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権
支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額

 退職金債権は退職によってはじめて具体化するものですが、申立ての時点で退職したと仮定した場合の退職金の支給見込額を算出することになります

 退職金の支給見込額が160万円以下である場合は、換価を要しません。退職金の支給見込額が160万円を越える場合、例えば、支給見込額が320万円の場合は、うち280万円については換価を要しないことになります。

 換価を要することになったとしても、破産者が退職する必要はなく、事案に応じて、破産者が退職金の支給見込額の8分の1(例えば、支給見込額が320万円の場合は40万円)を破産財団に組み入れることが考えられます。

 退職金については、本来、差押可能な範囲は4分の1ですが(差押禁止債権)、将来退職金を受給するかどうかは不確実な面もあることから(退職時までに勤務先が倒産したり、本人が懲戒解雇されたりするおそれがある)、4分の1ではなく、さらに半分の8分の1を破産財団に組み入れればよいという運用がなされています。

家財道具

 「生活に欠くことができない」家財道具は、本来的自由財産となりますが、この基準では、それ以外の家財道具も含まれます。もっとも、高級な家具などはこれにあたらず、ここでいう「家財道具」とは、あくまで通常の生活に必要な家財道具を意味するものと考えられます。

定型的に拡張が認められる財産以外の財産

 各裁判所の基準で定型的に拡張が認められていて、自由財産拡張の申立てを要しないものとされている場合以外は、通常、申立人代理人が裁判所に対して、自由財産拡張の申立てを行います。

 裁判所は、破産管財人の意見を聴いた上で、自由財産の拡張を認めるかどうか決定します。自由財産の拡張を認めるかどうか判断するにあたっては、破産者の生活状況、本来的自由財産の種類及び額、収入を得る見込みその他の事情を考慮することになります(破産法34条4項)。

 裁判所が自由財産の拡張を認めるラインとしては、総額で99万円が一つの目安となります99万円以下の現金が自由財産とされていることとの均衡から、総額99万円までであれば比較的緩やかに判断がなされる一方で、総額99万円を越える場合にはより慎重に判断がなされます。(総額99万円以内でも、自由財産の拡張が必ず認められるわけではなく、拡張の必要性などを裁判所に説明することになります。)

新得財産

 破産財団は、破産手続開始のときに破産者が有する財産によって構成されます(破産法34条1項)。したがって、破産開始決定後に破産者が取得した財産、いわゆる新得財産は、破産財団から除かれ、破産管財人による換価、処分の対象となりません。

 例えば、破産者が破産開始決定後の労働の対価として得た給料などがこれにあたります。

 破産開始決定後に得た財産について、破産者による管理、処分が認められることで、破産者は経済的再生を図りやすくなるといえます。

 自己破産の手続きにおいて、特定の財産を残せるかどうかについては、慎重な判断を要する場合があります。自己破産をお考えの方で、自動車や解約返戻金がある保険など、一定の財産がある場合には、財産の処分の見通しについて一度弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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